ちょっと洞察にとんだコメントを見つけたので、紹介したく思います。
つみたてNISAについて教えてください。
投資初心者です。
最近の一時的なNYダウの下落の影響で日経平均株価も下落し、それによってほとんどの投資信託の基準価額が落ちてしまいました。そのときにふと思ったのですが、結局、ほとんどの投資信託が米国に影響されてしまったら、分散投資してもリスクが軽減することはないのではないですか?
つみたてNISAの投資信託以外では米国に影響されずにずっと上がっているものもあるかもしれませんが、つみたてNISAでしか選べない投資信託ではほとんどがこの影響を受けています。
金融庁が分散投資でリスク軽減と言っていたのに分散しても共倒れ状態です。
これはまったくその通りで、近年の株式市場は1つの市場の株価が下がると、他の市場もつられて株価が下がることが多いです。
しかも金融危機や経済不安の兆候が見られると、多くの相場で大幅な値下がりを経験しがちです。
今回はこのあたりの話について、解説したく思いました。
結論から述べると、こうなってしまう背景には、通信技術が発展し、市場の相関性が高まっている理由があります。
つみたてNISA対象ファンドだけでリスク分散を図ることには限界がありますので、課税口座(特定口座)で選べる商品や現金・預金などを組み合わせて、資産全体でリスク分散を図る必要があります。
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株式市場間の相関性が高まっている
インターネットの発展とともに、世界市場の相関性が上昇
上述の通り、近年の株式市場は1つの市場の株価が下がると、他の市場もつられて株価が下がることが多いです。
つまり、各国の株式市場の相関性が高まっています。
ジェレミー・シーゲル氏の書籍「株式投資の未来」では、米国市場と非米国市場のリターンの相関性について、
- 1978年:約0.48
- 2002年:約0.76
と示しています。
この数値(相関係数)は「-1~1」の間で表され、1に近づくほど相関性が高く、-1に近づくほど逆相関になります。
すなわち、米国市場と非米国市場は1978年よりも相関性が高まっていることが示されているのです。
なお、相関性が高まったのは1998年頃からで、ちょうどインターネットの発展・普及と連動しています。
「株式投資の未来」では、通信革命を背景に、トレーダーが外国のニュースや展開に反応するようになったから、と言及されています。
現在の日本と先進国市場の相関性は?
三菱UFJ国際投信のデータでは、日本株式(TOPIX)と先進国株式の相関性は0.644と示されています。
また、JPモルガンAMの超長期マーケット予測では、今後の日本株式(大型株式)と先進国株式の相関性を0.82と予想しています。
つまり、各市場の相関性は今後も高まる可能性が高いのです。
相関性が高まるとどうなる?
相関性が高まるほど、分散投資の意味がなくなってきます。
以下は、2つの異なるリスクとリターンの商品について、相関係数を変えた際に取りうるリスク・リターンを示すものです。
この図で示したいものは、相関係数が低いほど、組み合わせ次第でリスクが下がる(線が左側に曲がる)ことです。
相関性が高まっているということは、株式を組み合わせてもリスクが下がりにくくなっている、つまり分散投資する意味が薄れてきていることを意味するのです。
対策:つみたてNISA口座以外で、個人向け国債や国内債券ファンドを買おう
現在のところ、つみたてNISA対象商品だけで、十分にリスク分散できる商品組み合わせはありません。
つみたてNISA対象投信はほぼ株式投信ばかりで、その商品はこれまで述べてきたように相関性が高くなっている問題があるからです。
債券比率の高いファンド(例えば、ダイワ・ライフ・バランス30やDC年金バランス30)もありますが、つみたてNISA口座の非課税メリットを最大限利用するためには、
- 株式ファンド → つみたてNISA口座
- 債券ファンド → 特定口座(課税口座)
としたほうが良いと思います。
この場合、特定口座(課税口座)で購入するのは、
- 個人向け国債
- 国内債券ファンド
- 純金ETFなど
- (先進国債券ファンド)※この問題は後述
などが候補に挙がります。
このうち、国内債券ファンドは債券市場の問題がありますので、ストレートにオススメしやすいのは個人向け国債と純金です。
なお、純金投資は選ぶ商品によってかなり手数料がかかるので、投資先に注意すること。
先進国債券:分散投資の際に「日本ならでは」の困った事情
「つみたてNISA口座で株式ファンドを購入し、特定口座(課税口座)内で債券ファンドを買う」という分散投資を考える場合があります。
しかし、日本特有の事情から、債券ファンドを買ってもうまくリスク分散できない場合があります。
それが、外国債券ファンドを買った場合です。
金融危機で円高になりやすいので、債券でも損をしてしまう(いわゆる外債不要論の根拠の1つ)
日本は金融危機・経済不安にともない円高になりやすいため、外貨建て債券も金融危機・経済不安時には為替で損をしてしまうことが多々あります。
上述の三菱UFJ国際投信のデータでは、日本株式(TOPIX)と相関係数を見ると、
- 先進国債券:0.537
- 新興国債券:0.556
と、(強いとはいえないものの)正の相関があります。
日本株が下がる局面では先進国債券や新興国債券も下がる可能性が高いのです。
日本株式(TOPIX)と相関性が低いのは国内債券のみ(-0.185)。
つまり、先進国債券(や新興国債券)への投資は、それが本当にリスク分散になっているのか、考える必要があるんです。
為替ヘッジを行なうとリスク分散性が高まる
為替ヘッジを行なうと、為替の影響を軽減できるため、株式と債券は逆相関の関係になりやすくなります。
JPモルガンAMのデータでは、日本を除く先進国債券(為替ヘッジ)と日本株式の相関係数が-0.31と予想しており、リスク分散を目的するなら、ヘッジなしの債券よりも効果的です。
ただし、為替ヘッジを行なうことで、いわゆる「ヘッジコスト」が発生するなど、デメリットも生じます。
日本は諸外国よりも低金利な国ですので、為替ヘッジを行なうことでほぼ確実にリターンが下がります(日本より低金利な国・地域があれば、ヘッジプレミアムがつきます)。
為替ヘッジコストとは、高金利通貨を買って低金利通貨を売った場合に支払う2通貨間の金利差分のコストと考えることができます。外貨の為替リスクを日本円にヘッジする場合、ヘッジコストはヘッジを行う時点における「外貨の金利−日本円の金利」と表されます。
つまりどうすればいいのか
つみたてNISA対象の投資信託だけ買い集めても、おそらく同じような値動きをする問題があります。
なので、「つみたてNISA対象の投資信託とは別の商品を、特定口座(課税口座)で買いましょう」という話です。
そして、その際には個人向け国債を筆頭に、金や他の国内債券ファンドが選択肢になります。
先進国債券は、つみたてNISA対象の投資信託と似たような値動きをする可能性があるので、安全性を追求する際には個人向け国債だけでも十分だと思います。
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まとめ
- 株式市場は相関性が高くなってきており、つみたてNISA対象商品の1つが値下がりすると、他の商品も値下がりしやすくなっている
- リスク分散を重視するなら、つみたてNISA口座外で買える商品を選ぼう。個人向け国債はその際の筆頭候補
- 先進国債券はリスク分散になりにくい。日本は金融危機時に円高になりやすく、為替差損を被ってしまうため
結局「世界株式と現金」の組み合わせがシンプルでベストなのでは?
なお、最も簡単なポートフォリオは「世界株式と現金のみでバランスを取る」ものだと思います。
つまり、つみたてNISAやiDeCoで株式ファンドを運用し、残りは現金をひたすらためるようなポートフォリオです。
現金はインフレに滅法弱いものの、デフレには強く、株式との相関性もありません。
しかも、金融危機時には株式に追加投資できる、という旨みさえあります。
これでも十分だと思いませんか??
別に分散投資といって、分散投資の意義が失われつつある現在は、あれもこれもとたくさん買う必要はないんです。