50代から始めるつみたてNISAは、20、30代の運用と異なり、将来を深く検討した上で取り組むべきだと筆者は思っています。
理由は簡単で、20、30代なら運用に失敗しても、給与収入でなんとかできる一方で、50代は老後までの残された期間がわずかで「失敗はゆるされない」ケースも多々あるからです。
今回この記事を書こうと思ったのは、コメント欄にいただいた質問に起因します。
投資初心者の50代女性です。
老後資金確保のため、つみたてNISAをはじめました。
超がつく初心者のため選んだファンドは「eMAXIS Slimバランス(8資産均等型)」です。(中略)
積み立て枠の残り16万円も投資しようと思いはじめたのですが、別のバランスファンドを購入しても問題ないのでしょうか?
それとも現在のeMAXIS Slimバランス(8資産均等型)を上限まで積み立てた方が良いのでしょうか?
https://blog.tacos-heaven.xyz/2018/05/11-16/#comment-3
20、30代なら「いいよいいよ、がんがんいこうぜ」と言いたいところですが、今回はちょっと質問者さまに考えていただいた上で判断してほしいと思ったのです。
だって、つみたてNISAも投資ですから、絶対儲かるとは限らないからです。
以下、質問者様同様に投資経験がなく、最近つみたてNISAを通じて初めて資産形成に手を出した、という前提で記事を紹介します。
[スポンサーリンク]
手順1.「つみたてNISA」の前に老後に必要なお金を計算しよう
まず、「つみたてNISA」は置いといて、最初に老後に必要なお金を求めます。
統計では、「老後に必要なお金は2,000〜3,000万円」といった数値は求まりますが、これは必ずしも各個人に当てはまるとは限りません。
例えば大家族で厚生年金払っている人もいれば、独身で安い給料から国民年金をがんばって払ってきた人もいて、その差は幅広いからです。
そこで、今回は「人生設計の基本公式」という無料ツールを使って、老後の生活のことを考えてみます。
「人生設計の基本公式」で老後の生活費を求めよう
「人生設計の基本公式」では、
- 年収
- 老後生活費率(老後は現在の生活費の何割で生活するか)
- 現在資産額
- 年金額
- 現役年数
- 老後年数
をそれぞれ入力することで、現在貯蓄すべき金額と、老後の1か月あたりの生活費を求めることができます。
※年金の見込み支給額を知りたければ、日本年金機構に問い合わせてください。
年金の見込額を確認するにはどうすればいいですか。 | 日本年金機構
もしくは超概算で現在の年収に50%を掛け算しても良いです(所得代替率50%、厚生年金の場合)。
例えば、「人生設計の基本公式」に以下のように入力した場合、
- 年収:300万円(手取り)
- 老後生活費率:70%(現役時代の70%の生活費で老後を過ごす)
- 現在資産額:500万円
- 年金額:150万円(年額。1か月あたりの支給額は12.5万円と仮定)
- 現役年数:15年(現在50歳とすると、65歳 – 50歳 = 15)
- 老後年数:20年(85歳で死亡するとする)
得られる結果は以下のとおりです。
- 現役時代に必要な貯蓄額:毎月20,115円(年額:241,379円)
- 老後の生活費:毎月160,920円(年額:1,931,035円)
毎月約16万円という金額では、なんとか生活はできそうですが、旅行したり贅沢をしたりは難しいですね。
そこで、試しに老後生活費率を80%に上げると、老後の生活費は多めに取れる一方で、毎月の貯蓄額もきつめになります。
- 現役時代に必要な貯蓄額:毎月34,946円(年額:419,355円)
- 老後の生活費:毎月172,043円(年額:2,064,516円)
このように試算を繰り返すことで、ご自身の収入と資産の範囲から妥当なものを模索すると、現在貯蓄すべき金額や老後にかかるお金もなんとなく想像がつくかと思います。
理想は貯金だけで老後の生活をカバーできること
さて、考え方はいろいろあるでしょうが、筆者個人としては、投資は起死回生の一発逆転よりも、老後の「普通」の生活をより豊かにするために使うべきだと思っています。
現在の貯蓄額 + これからの見込みの積立額でも、老後はそれなりに暮らせる。
でも、つみたてNISAを始めることで、運用で得た利益を使って旅行に行ったり、美味しいものを食べたりしたい!
こんな感じで、つみたてNISAを利用できるのが理想です。
そもそも、つみたてNISAを使った投資(インデックス投資)は、起死回生を目指せるほどの利益は見込めず、うまく運用できても投資額の1.5倍程度に増えれば良い方です。
そのため、あなたが「人生設計の基本公式」を使った試算で、どう頑張っても「現実的な数字を導き出せない」場合には、投資(つみたてNISA)よりも副業などを通じて、より金銭を得る努力をすべきです。
参考:「現実的な数字を導き出せない場合」とは
例えば、以下の条件で現在貯蓄すべき金額と老後の生活費を求めると、65歳までの15年間で毎月59,195円貯蓄しても、老後の生活費は1か月98,563円にしかなりません。
- 年収:240万円(手取り)
- 老後生活費率:70%(現役時代の70%の生活費で老後を過ごす)
- 現在資産額:0万円
- 年金額:65万円(年額。国民年金のほぼ満額支給額)
- 現役年数:15年(現在50歳とすると、65歳 – 50歳 = 15)
- 老後年数:20年(85歳で死亡するとする)
この状態で65歳の老後に突入すると、毎月の生活費は生活保護水準となり、つみたてNISAや老後の旅行以前に、生活維持そのものが危うい状態と言えます。
50代でパート勤務などをやってると、この試算のような状態になります。
手順2.「人生設計の基本公式」をつみたてNISAに生かす
では、ここからが本題。
つみたてNISAも併用し、老後の話を検討します。
つみたてNISA投資分を全損した前提で考え、生活できる範囲を求める
今回は、以下の条件を使って、貯蓄の一部をつみたてNISAに変えた場合、老後の生活費はどうなるか、を算数で考えます。
- 年収:300万円(手取り)
- 老後生活費率:80%(現役時代の80%の生活費で老後を過ごす)
- 現在資産額:500万円
- 年金額:150万円(年額。1か月あたりの支給額は12.5万円と仮定)
- 現役年数:15年(現在50歳とすると、65歳 – 50歳 = 15)
- 老後年数:20年(85歳で死亡するとする)
- 現役時代に必要な貯蓄額:毎月34,946円(年額:419,355円)
- 老後の生活費:毎月172,043円(年額:2,064,516円)
繰り返しますから、投資では損を出すことも考えられますから、仮に損をしても痛くない範囲で投資額をコントロールすることで、老後の生活プランの破綻を回避できます。
言い換えると、投資したお金が全額損失になった場合、残ったお金で生活できるかどうかを考えて、つみたてNISAを増額するかどうかを考えます。
以下、投資したお金が全損になった前提で、老後の生活費を求め直してみます。
参考:計算式はこちら
- 毎月の積立額の合計:(毎月貯蓄できる額 – つみたてNISAへの積立額 )× 12か月 × 現役年数
- 老後の生活費(毎月):(年金支給額 + (毎月の積立額の合計 / 老後年数) + (現在資産額 / 老後年数))/ 12か月
実際に計算してみる
例1:毎月1万円の貯蓄をつみたてNISAに切り替えた場合
運用に全損したら
例えば、「現役時代に必要な貯蓄額:毎月34,946円(年額:419,355円)」のうち、毎月1万円をつみたてNISA、残りを貯蓄に回したと仮定します。
毎月の貯蓄額 | 24,946円 |
つみたてNISA投資額 | 10,000円 |
65歳時点での総資産 (貯金のみ) | 9,490,280円 |
老後の毎月の生活費 | 164,542円 (-7,500円) |
このケースでは、仮につみたてNISAで運用に失敗し、投資したお金を全額失った場合、毎月の貯蓄額は24,946円と同じと考えられますので、老後の生活費は毎月164,542円(運用しなかったケースに比べ、毎月7,500円のマイナス)となります。
「7,500円ぐらいなら・・・」と思うなら、毎月1万円の投資はありですし、「7,500円も減るの・・・」と思うなら、毎月1万円の投資はなしです。
年利2%でうまく運用できたら
なお、仮に毎月1万円を年利2%(比較的低リスクのバランスファンドに投資した際に得られそうな実質リターン)で運用できた場合、15年間で30万円ほどの利益が出ます(180万円の投資に対し、210万円の評価額)
この場合には、老後の生活は173,292円となり、運用しなかったケースに比べ、毎月1,250円のプラスとなります。
旅行に行けるかは微妙ですが、記念日にちょっと美味しいものを食べる、といったことはできそうです。
例2:毎月3.33万円の貯蓄をつみたてNISAに切り替えた場合
運用に全損したら
今度は、「現役時代に必要な貯蓄額:毎月34,946円(年額:419,355円)」から、つみたてNISAの毎月の上限額である3.33万円まで運用し、残り1000円ちょっとを貯蓄に回したと仮定します。
毎月の貯蓄額 | 1,646円 |
つみたてNISA投資額 | 33,300円 |
65歳時点での総資産 (貯金のみ) | 5,296,280円 |
老後の毎月の生活費 | 1470,67円 (-24,975円) |
このケースでは、仮につみたてNISAで運用に失敗し、投資したお金を全額失った場合、毎月の貯蓄額は1,646円と同じと考えられますので、老後の生活費は毎月147,068円(運用しなかったケースに比べ、毎月24,975円のマイナス)となります。
「24,975円ぐらいなら・・・」と思うなら、毎月3.33万円の投資はありですし、「24,975円も減るの・・・」と思うなら、毎月3.33万円の投資はなしです。
年利2%でうまく運用できたら
なお、仮に毎月3.33万円を年利2%で運用できた場合、15年間で98万円ほどの利益が出ます(594万円の投資に対し、692万円の評価額)
この場合には、老後の生活は176,126円となり、運用しなかったケースに比べ、毎月4,083円のプラスとなります。
ちょっとした日帰りバスツアーの可能性が出てきました。
手順3.計算に基づき、積立額と商品を選択する
不安を感じるようなら安全資産のままとする
例えば、「例1:毎月1万円の貯蓄をつみたてNISAに切り替えた場合」を参考に、「毎月1万円をつみたてNISAに積み立てたところ、つみたてNISAの運用に失敗し、老後の生活費は毎月164,542円になるのは困る、問題だ」と考えるなら、つみたてNISAへの増額は行わず、銀行預金や個人向け国債など、安全資産への積み立てを強化します。
一方、「老後の生活費は毎月164,542円になっても大丈夫、問題ない」と考えるなら、問題がないと考えられる金額までの増額を検討します。
もし、つみたてNISAの上限である毎月3.33万円まで増額してもなおリスクが取れるならば、よりリスクの高い商品への乗り換えを検討しても良いと思います。
全損しても構わないなら、よりリスクの高い商品を選んでみる
例えば、「例2:毎月3.33万円の貯蓄をつみたてNISAに切り替えた場合」を参考に、「毎月3.33万円(上限)をつみたてNISAに積み立てたところ、つみたてNISAの運用に失敗し、老後の生活費は毎月147,068円になっても良い、問題ない」と考えるなら、よりリスクの高い商品も選択肢になります。
質問者様の場合には、eMAXIS slim バランス(8資産均等型)を選ばれているようですが、これを例えばニッセイ外国株式インデックスファンドやeMAXIS slim 先進国株式インデックスなどに切り替えてみます。
つみたてNISAでは非課税枠の都合上、売却しないほうが有利です。
投資信託を乗り換える場合には、すでに購入したものを残したまま、新しい商品への積み立てを開始し、そのまま20年後まで継続したほうが良いです。
老後の生活に支障がでるなら、つみたてNISAは増額しない
何度も繰り返すように、つみたてNISAで損失が出た時に、老後の生活に支障が出るならば、投資額は増額せずに安全資産のままのほうが良いです。
ここでの試算例は、個人の年金見込み額や現在の資産額で大きく異なりますので、一度ご自身で計算してみることをお勧めします。
また、20代や30代であっても、老後に対する不安が強い場合には、このような計算を使って道筋を立てたほうが安心です。
相場が良いとどうしても全額投資したくなるのですが、10年に1回ぐらいは大きな下落相場が来るかもしれませんから、あとあと後悔しないように一度計算なさってみてください。
[スポンサーリンク]
まとめ
- つみたてNISAの投資額に「目安」がほしいなら、一度老後に必要な生活費と、そのための毎月の貯蓄額を検討してみよう
- 貯蓄額を検討する上で、つみたてNISAに投資した分は全額損失になったとして考えてみる。生活費が減っても耐えられる範囲までは、つみたてNISAの積立額を増やしてもよい
- 生活費が減って、耐えられない金額になるならば、無理に積立額を増やす必要はない。つみたてNISAは老後のための逆転の秘策にはならないので、お金が足りない場合には副業など別の方法を検討しよう
ここではつみたてNISA分は全損する前提で試算しましたが、実際の投資信託で全損はまずあり得ないので、その点はご安心ください。
どんなにうまくいかなくても、投資額の5割ぐらいは戻りますから。
50代からつみたてNISAを始めるなら、ぜひ「人生設計の基本公式」のようなツールも使いながら、一度ご自身の老後のお金もお考えになって、無理のない範囲で積み立てを行うようオススメいたします。
追記:老後資金に必要な積立額を計算するツールを作りました
老後資金を求める計算機ツールを作りました。
- 年金額の概算方法
- 老後までに必要な積立額
- 利回り別の主なインデックスファンド
等を紹介していますので、合わせてご利用ください。