2020年3月の債券価格の推移をツイートしたところ、新興国債券に関するコメントをいただいたので、この記事にまとめることにしました。
新興国債券、最大で20%近く下がってたのか。
これだとリスク分散という目的では組み入れづらいですね。 https://t.co/gu3APgj53I
— 小林亮平 / BANK ACADEMY (@ryoheifree) May 5, 2020
新興国株やREITはターンが回ってくる相場も今後ありそうですが、新興国債券だけは負け続けている印象です。
— jgvic (@montenegro4444) May 5, 2020
たしかにこれだけ下落すると、新興国債券をリスク分散のためのアセットアロケーションに組み込んで活用するのは難しいかもしれませんね。というわけで、それを調べてみたのがこの記事です。
結論は以下の通りです。
★記事の結論
- 新興国債券は2020年3月の下落でぼろ負けだった。株式ほどではないが、大きな下落を経験し、そのまま安値が続いている
- 新興国債券が積極的に選ばれる場面は考えにくい。株高時に他の資産とともに買われる程度で、実はポートフォリオに含めなくても良いのかも
- バランスファンド利用者は新興国債券に投資することが多いので、「そういう特徴を持つもの」として付き合うしかない
実際には、新興国債券は不要と感じていても、バランスファンドを通じて投資している方が結構いらっしゃると思います。なので、それは「そういうもの」として、買い続けるのが良いと思います。
では見ていきましょう!
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おさらい:新興国債券の中身
まずは新興国債券ファンドの中身を確認しましょう。以下はeMAXIS 新興国債券インデックスのマンスリーレポートから引用したものです。
出典:https://emaxis.jp/fund/260448.html
ファンドの構成国はタイやブラジルなどで、運用通貨もバーツやレアルなどの現地通貨です。
一般に、投資信託を通じて投資する新興国債券は現地通貨建てで運用します。一方、新興国債券に投資するETFや為替ヘッジ付き投信はドル建てで運用することが多いです。
★現地通貨建て新興国債券とドル建て新興国債券の違い
- ドル建て:利回りが低いが為替リスクはドルと円で決まる
- 現地通貨建て:ドル建てよりも利回りが高いが、大きな為替リスクも発生する
3月のクラッシュでは「ぼろ負け」
2020年1月からの債券のパフォーマンスを比較してみましょう。
出典:Funds-iの基準価額をもとに筆者作成
★凡例
- 青:国内債券
- 橙:先進国債券
- 黄:先進国債券(為替ヘッジあり)
- 灰(太破線):新興国債券
- 水(太実線):新興国債券(為替ヘッジあり)
出典:Funds-iの基準価額をもとに筆者作成
★凡例
- 青:国内債券
- 橙:先進国債券
- 黄:先進国債券(為替ヘッジあり)
- 灰(太破線):新興国債券
- 水(太実線):新興国債券(為替ヘッジあり)
新興国債券(現地通貨建て)は3月に18%値下がりし、その後も下落したままです。国内債券や先進国債券などの債券とは値動きの大きさが異なりますね。
以下で述べるように「安定運用を期待するなら、新興国債券は不要」だと思います。
一方、為替ヘッジ付きはドル建てのため、現地通貨建てよりもパフォーマンスが良くなってます。現地通貨建ては3月以降「債券安 + 円高」と新興国債券がよく負けるパターンに陥ってます。
新興国債券ってどんなシチュエーションで勝てるの?
「新興国債券が積極的に選ばれる場面」ってないのでは?
というわけでこの話。
新興国株やREITはターンが回ってくる相場も今後ありそうですが、新興国債券だけは負け続けている印象です。
今回はJPモルガンアセットマネジメントのGuide to the Marketsより引用にて紹介します。「Guide to the Markets」は中級者向け以上の難度だと思いますが、かなり参考になるので見ておいて損はないです。
Guide to the Markets | JPモルガンアセットマネジメント
以下はGuide to the Marketsの74ページから引用した「資産クラス別のリターン(円建て)」です。これを見ると、2007年以降で新興国債券がもっともリターンが高くなったことはありませんでした。
出典:https://www.jpmorganasset.co.jp/GTM/jp.pdf(2020年4月版。P74)
注意点として、この図中の新興国債券はドル建ての商品のパフォーマンスです。上述のeMAXIS 新興国債券インデックスを始め、日本の新興国債券ファンドは大半が現地通貨建てなので、パフォーマンスはもっと低くなることが多いです。
上のパフォーマンスの図を見ると、以下のようなことが言えると思います。
★図から言えること
- リスクオフ局面(株安時)で成績が良いのは比較的安全性の高い債券(先進国債券)です
- 一方、リスクオン局面(株高時)で成績が良いのは株式やREITです
じゃあ、新興国債券が優先的に買われる場面ってどんな時なんでしょうね?
個人的にはリスクオン時に他の資産につられて値上がりしてるようにしか見えないです。。。なんというか、「あってもなくても変わらないじゃない?」といった印象です。
余談:8資産から新興国債券(現地通貨建て)を除いたポートフォリオ
というわけで、投信アシストで新興国債券を除いたポートフォリオを作って比較してみました。
★凡例
- 紫:8資産均等配分(※)
- 青緑:新興国債券を除いた7資産均等配分
※投信アシストの新興国債券は現地通貨建て
まあ・・・「新興国債券あってもなくても変わらないねw」って結果ですねwというか、無いほうが良い成績になってるという。。。
実際には新興国債券だけ除くのは難しい
と、ここまで見てくると新興国債券(特に現地通貨建て)のものは不要とも思えるのですが、現実的な問題として、特にバランスファンドでは新興国債券を含むものが一般的です。
例えばeMAXIS slim バランス(8資産均等型)などを選ぶと、12.5%の比率で新興国債券もくっついてきます。これを取り除くことは、当然できません。
なので、「新興国債券は暴落時にはあまりクッションにならない」ということを前提に付き合っていくしかないかなと思います。
なお、ポートフォリオを自由自在に組んで運用できる方は、「新興国債券は含めない」ってのも一案ですね。
新興国債券は伝統的資産としての株式&債券とは異なり、いわゆるジャンク・ボンドとしての性質が強いです(特に現地通貨建て)債券として積極的に組み込む必要は無いですが、REIT同様、株式インデックスとは別の挙動をしつつ、株式並みの利回りを得られるオルタナティブ資産として選択しています。 https://t.co/tLA9C3xXJE
— ポンチ熊@その日暮らし☕ (@ponchiwork) May 5, 2020
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まとめ
- 新興国債券は2020年3月の下落でぼろ負けだった。株式ほどではないが、大きな下落を経験し、そのまま安値が続いている
- 新興国債券が積極的に選ばれる場面は考えにくい。株高時に他の資産とともに買われる程度で、実はポートフォリオに含めなくても良いのかも
- バランスファンド利用者は新興国債券に投資することが多いので、「そういう特徴を持つもの」として付き合うしかない
余談:新興国債券の見通しは?
市況的には、今新興国債券の価格が上がることは考えにくいと思います。
欧米の投資家が新興国資産を売り、自国の安全資産へ資金を戻している。(中略)先進国と新興国の最大の差は政府・中銀の政策対応だ。米国をはじめ、先進国は経済対策に巨額の財政を出し、中銀が大量の国債を買い、金利高騰を抑えている。だが、新興国は大規模に財政出動すると通貨安に拍車がかかる。通貨急落はインフレやドル建て債務の膨張をもたらし、経済が一段と混乱するおそれがある。
出典:新興国、止まらぬ資金流出 政策対応に限界 | 日本経済新聞(2020年4月24日)
新興国は先進国のように、大規模な量的緩和策を行えません。そのため、コロナの感染拡大が終わり、先進国の経済が復調してくるまでは、新興国は破綻リスクを抱えた状態が続くように思います。新興国債券価格が本格的に戻るのはその後かなって気がしますね。
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