米国の高配当ETFである「SPYD」と「VYM」の組み合わせを検証したので解説します。併せて保有する方は結構いらっしゃるはずです。
「SPYD」と「VYM」の組み合わせを考える時、「セクター比率が異なるから良い」みたいな結論になりがちですが、これはおそらく違います。セクター比率はリバランスで変わるからです。
そこで今回は、SPYDとVYMがスマートベータETFであることに基づき、異なる視点で組成された2つのETFを組み合わせて保有することで、リスクを軽減しつつリターンを取り出せるか、を考えます。
この記事においても「高配当ETFはコロナショックでS&P500にぼろ負けなので、買うべきでない」とは言いませんw
なお、高配当ETFの選び方については以下の記事もご覧ください。
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SPYDとVYMを組み合わせた保有期間リターン
さっそくSPYDとVYM、そして両者を50%ずつ保有して2年間運用した場合のパフォーマンスを見てみましょう。以下は2年間運用した時のリターンを線でつないだものです。
なお、いずれのデータも配当再投資後の理想的なものです。
VYMは銘柄の保有比率を時価総額に基づいて決めるため、いくつかある高配当ETFの中でもっともS&P500に「近い」値動きになります。一方、SPYDは銘柄の保有比率を大胆に変更するため、S&P500を超える場面もあれば、大きく劣後する場面も出てきます。
つまり、VYMとSPYDの両者を組み合わせることで、この中間的な値動きを得られます。
例えば、2016年頃はSPYDの成績が良かったので、VYMに組み合わせることで運用成績の底上げができました。しかし、コロナショック以降は、逆に足を引っ張る形になっています。
なお、VYMとSPYDの相関は0.97(2011~2020)と極めて正相関が強いので、両者を組み合わせることで毎日の値動きを緩和する効果は期待できません。保有比率に応じて、より多く組み入れたETFの特徴の影響が強く出るだけです。
2つの高配当ETFの成績差はどこで決まるの?
SPYDとVYMの成績差を考えるために、景気との関係を見てみましょう。
以下は「VYMの成績からSPYDの成績を引いたもの」と米国ISM製造業購買担当者景気指数とを重ねたものです。
このグラフを見ると、景気が良くなっていく(米国ISM指数が上がる)タイミング、または悪くなってくる(米国ISM指数が下がる)タイミングでSPYDが強く、景気が安定するとVYMが強いように見えます。
ただ、きれいな傾向とは言いにくいですね。
つまり、景気動向次第でVYMとSPYDの強さが変わるため、長期的には両者を組み合わせて運用する考え方もありだと感じます。
もう1つ、SPYDとVYMの米国10年債金利との関係を見てみます。こちらのほうがVYMとSPYDの成績差をきれいに説明できる気がします。
米国10年債金利が上昇すればVYMの成績が良くなり、下落すればSPYDの成績が良くなる傾向に見えます。
この関係は、VYMが優良な高配当株を選んでいるのに対し、SPYDはしばしば負債の大きな大型株をポートフォリオに加えている点に起因します。金利が上昇すると、負債の大きな企業は経営が圧迫されますので、業績が悪くなり、株価にも影響を与えます。
ここまでの特徴から、「安定的な分配金収益を受け取りたい」という需要を満たすのはVYMであり、SPYDはややリスキーな要素を持っていると言えます。
SPYDとVYMの組み合わせはありか?なしか?
ここまで述べた特徴から、SPYDとVYMを組み合わせることで毎日の値動きを緩和するメリットはないものの、長期的には景気の異なるシチュエーションでお互いの強さを発揮する可能性があります。
しかし、注意点があります。
VYMと比較すると、SPYDは経済に対する脆弱性というか、不確実性があるように見えます。
★SPYDに見える不確実性
- 景気の強い局面で、SPYDがVYMを上回るとは限らない可能性
- SPYDはVYMに対して金利の影響を受けすぎる可能性
つまり、VYMを選んだ投資家が、SPYDを組み合わせようとすることは、スマートベータ特有のキャピタルゲイン(値上がり益)のために、ポジションが景気動向に弱くなるリスクを取ることになるかもしれません。
安定的な分配金を得たい投資家にとっては、VYMだけでも十分なように感じます。
2016年頃のように、SPYDが明確に市場を上回るシチュエーションは今後もあると思います。そういった値上がりをどう考えるか、でしょうか。
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まとめ
- 人気の高配当ETF「VYM」と「SPYD」について、両者を組み合わせて保有するメリットはあるかを検証
- 運用時期によってVYMが優れる場面とSPYDが優れる場面があるが、その成績差は金利動向の影響を受けている可能性がある
- SPYDはVYMよりも経済の変化に弱いが、スマートベータ特有のキャピタルゲインを期待できるかも
結論としては、VYM投資家がSPYDを買うのは慎重になるべきだが、SPYD投資家がVYMを買うのは運用成績の底上げ(悪い状況への備え)になるかもしれない、といったところです。
後はどの程度スマートベータの有効性を信じるかでSPYDを組み合わせるかどうかを考えてよいと思います。