「野村スリーゼロ」の話が読みたいとの要望があったので記事にしましょう。
野村スリーゼロ改め「野村スリーゼロ先進国株式投信」とは、野村アセットマネジメントが運用する投資信託で、日本を除く先進国株式に投資する投資信託です。2020年3月16日から2030年12月31日までの信託報酬を0%に設定しており(2031年以降は税抜0.1%以内)、これまでの低コストファンドにはなかった斬新な特徴を持っています。
ちなみに、野村證券のオンラインサービスのみで販売されており、ネット証券利用者は買えません。
というわけで、この商品について思うところを書いていきましょう!
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「野村スリーゼロ先進国株式投信」が生まれた背景
信託報酬が「ゼロ」であることの意味
冒頭でも述べたように、スリーゼロは信託報酬を今後10年間ゼロにすることを謳う投資信託です。このやり方で低コストさを実現しようとしたのはたぶん初めてです。
そもそも信託報酬は、投資家にとって投資信託の運用中に発生するコストです。つみたてNISAから投資信託に入った方は「信託報酬は低いほうが良い」ことをご存知かと思います。
ただ、信託報酬は販売会社(ここでは野村證券)や運用会社(ここでは野村アセットマネジメント)の人件費や、運用上の必要な管理コストも賄うものです。つまり、10年間信託報酬がゼロということは、販売会社や運用会社は10年間確実に赤字になることが見えている商品です。
「利益を上げて会社としての価値を最大化する」ことが株式会社の存在理由ですから、普通に考えればあり得ない商品です。
ちなみに、本来信託報酬を絶対にゼロにできない理由の1つに、ベンチマークとしている指数の利用料を支払わなければいけない点が挙げられます。スリーゼロはMSCIコクサイインデックスを使っていますので、支払先は米国の「MSCI」です。今回はそのあたりも野村グループが自腹を切ることにしたのだと思います。
野村が敢えて「コストゼロ」で販売する目的
では、なぜ自腹を切ってまで低コストの投信を売るのかと言えば、野村證券への若い顧客の獲得を目指しているため、と感じます。つまりは「野村スリーゼロ」自体は一種の広告なのでは?と筆者は感じます。
余談ですが、おそらくSBIVOOも広告も意図した商品だと思います。自社グループだけで超低コスト投信を販売するというやり方は今後増えるかもしれません。
実は、野村證券は口座開設数においてSBI証券の猛追を受けており、そろそろ陥落しそうな状況です。
SBI証券は26日、口座数が500万を超えたと発表した。業界首位の野村証券(531万口座、1月末時点)に次ぐ規模となる。低コストのネット取引を武器に現役世代や投資未経験者を取り込んだ。
これまで野村證券は、おおよそ自社の顧客を退職金を得た高齢者など、裕福な中高年層をターゲットにしてきました。これはネット広告などを見るとわかりやすく、いまだに退職金や老後の資産運用といった高齢者向けのワードが並んでいます。
出典:グーグル検索
その一方で、SBI証券や楽天証券は若いユーザーを多数取り込んでいます。彼らが老後にネット証券から野村證券に乗り換えるか、と言われたら、それはたぶんあり得ない話だと思います。
おそらく、野村スリーゼロはこの状況を打破するために、売り上げ度外視で若いユーザー獲得を目的として販売されることになったと筆者は考えています。
上述のとおりに、つみたてNISAに関心を持つ方の間では「信託報酬は低いほうが良い」という点はよく知られています。投信ブロガーが選ぶ!Fund of the Yearでも、低コストな投資信託が評価されている点を運用会社は見ているはずです。
だから、野村スリーゼロは禁じ手を使ったのだと筆者は考えています。
広報は「初めての投資を応援」と述べていますが、実際には野村グループの苦しい事情を抱えての販売だと思います、個人的には。
そろそろ「インフレ的な勝ち方」をする運用会社に期待したい
信託報酬の引き下げ競争は弱い会社の破綻リスクを高める
野村スリーゼロや、他のインデックスファンドの信託報酬引き下げを見て、個人的に感じるところはここですね。。そろそろ、コストよりも付加価値を追求するインフレ的な勝ち方をする運用会社に期待したいです。
野村スリーゼロは特別としても、これまでインデックスファンドの運用では「コストを下げることで投資家の関心を引く」というやり方が一般的でした。例えば、eMAXIS slimシリーズも「業界最低水準」を目指すことで、「他社の引き下げに追従して信託報酬を下げる」というやり方で運用が行われてきました。
いわば、「デフレ競争」的な戦い方です。
三菱UFJ国際投信はさすがに今回は信託報酬を下げないでしょうが。。
ただ、VOOなどを有する米国のバンガード社を除くと、投信の運用会社はいずれも株式会社であり、信託報酬を引き下げることは株主の利益が減ることを意味します。そのため、本来はむやみやたらと信託報酬を下げられないはずなのです。
加えて、信託報酬の引き下げは、運用会社や販売会社の利益の減少を意味しますから、あまりやりすぎると弱い販売会社や運用会社の破綻を招きます。仮に運用会社が破綻すると、投資家の財産は守られはするものの、早期償還(運用をやめること)などが行われ、私たちの長期投資は途中で頓挫する可能性も出てきます。
なので、信託報酬の引き下げって実はちょっと考え物なんです。
現状では日本のどの運用会社も、低コストなインデックスファンドと高コストなアクティブファンドを販売することで、インデックスファンドの少ない収益を補填しています。低コストなインデックスファンドを買えるのは、銀行などで高コストなアクティブファンドを買ってしまう個人投資家がいるおかげ、と言えば複雑な気分ですね。
新たな戦い方も見てみたい
というわけで、運用会社の新たな戦い方も見てみたいと思うんです。
例えば、セゾン投信が現在としてはやや割高感もある信託報酬でファンドを運用していても根強いファンがいる背景には、個人投資家にとって「顔の見える」運用会社である点も大きいと思います。
ほとんどの運用会社は投信の販売を販売会社に任せており、「運用会社は表に出てこない」イメージがあります。しかし、例えばですが、もし、大手の運用会社が全国47都道府県を行脚し、つみたてNISAの勉強会や資産形成のセミナーなどを開催したら、その流れで自社のインデックスファンドを買う人も結構いると思うんです。
結局、「コスト引き下げ→ファンドの乗り換えで悩む」ということは、ブランディングが上手くいっておらず、ただの商品としてしか見られていないのだと思います。運用各社がその点をうまくブランディングできたら、「野村スリーゼロ」のような商品が出てきても、そう簡単には揺らがないのでは?と個人的には思うところです。
「野村スリーゼロ」買う?
いや、買いませんねw
信託報酬が0.1~0.2%違っても、今なら楽天スーパーポイントやらTポイントやらを考えると同じになると思うんです。
「信託報酬ゼロで出したけど、思ったより利用者が増えなかったので償還します」と言われても困るので、今まで通りにネット証券で純資産の多いファンドを買ってポイントをもらっておくのがベターではないでしょうか。
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まとめ
- 野村スリーゼロ先進国株式投信は2030年まで信託報酬0%で、その後は税抜き0.1%以内で運用される予定。販売会社は野村證券のオンラインのみ
- 信託報酬ゼロなので、販売会社や運用会社は損をする。おそらく広告宣伝目的での販売
- 楽天スーパーポイントなどのポイント投資も活用すれば、おそらくネット証券で従来通りの運用を行ったほうが最終的な利益は多くなる
2021年8月時点でスリーゼロの純資産は14億円程度。スリーゼロをきっかけに若い投資家層を取り込むという目論見自体は失敗したように感じるんですが、どうでしょうか。